第6 回 - 上海に居酒屋が復活する時

日系企業チャンネル 乾 亘
2009-12-21

 かつて紹興に行った時に訪れた「咸亨酒家」のような、紹興酒を楽しむ地元向けの居酒屋が上海にはほとんど見当たらない。五香豆や臭豆腐をつまみにお碗になみなみと注がれた黄酒をぐいっと飲み干す気軽な店がほとんどないのはなぜだろう。李白の詩にもよく酒の題材は出てくるし、紹興酒以外にも茅台酒などいろいろといわれある銘酒は多いのに。

 
 現在の上海の一般大衆には、紹興酒そのものを楽しむといった居酒屋の概念が存在しないのだろう。美味しいあてをつまみながら世間話に花を咲かせ、年代物の紹興酒を飲む。こういった文化はなぜ失われてしまったのだろうか? 紹興酒を飲むといえば顧客や友人との宴会の席と相場は決まっている。確かに、かたわらには美味しい中華料理が並び、つきない興味ある話をあてに紹興酒を飲む。一見、酒を味わっているように思うのだが、なぜかいつも終着駅は決まっており、黄酒であろうが白酒であろうが「乾杯」に落ち着くのである。
 
 乾杯は酒の味が最も分かりにくい飲み方であろうと思われるし、どこか強制的な匂いがして酒を味わうという趣はない。ただ酔えばよく、酔わせれば勝ち、ここには酒の文化は育たない。高級ワインでそんな飲み方をしたらソムリエはいい顔はしないはずだ。それなら安物の酒でよく、山田錦北秋田や森伊蔵、ポールジロー・ビクターサロモン、シャトーマルゴーなんかもお呼びでない。また、美味しい酒には美味しい料理(あて)がよく似合うが、現在の紹興酒にはその美味しい「あて」がない。美味しいあてだけを提供する店がないのである。
 
 酒の文化とはかつて芸術家や文豪を想起させたように、お互いが切っても切れない関係であった。酒には“ 気狂い水”といわれる一面がある反面、生活そのものを深める面白い作用も持っている。理性では割り切れない、計り知れない潜在力がある。
 
 この上海の夜を活性化させるのに、実はこの酒文化の高揚が大きな役割を担えると期待している。食事をしたら「さようなら」、飲みに行くにもナイトクラブやディスコ、カラオケといったワンパターンともおさらばできるかもしれないし、夜自体にももっと活気が出て明るく健康的になるはずだ。今後サービス産業や金融、旅行業などがメインになってくる上海で、夜上海を活性化させる非常に画期的なプロジェクトではないかと考えている。紹興酒文化が健全に発展すれば、その醸し出す環境もおのずと健全になり、面白みも増えるわけだ。真に紹興酒を味わう文化が夜上海を支配した時、初めて品位を保ち伝統を映し出す「夜上海」に変貌を遂げることができるであろう。

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